本作が描くのは、震災後の風景に漂う「目に見えないもの」への切実な眼差しです。タイトルの通り、風のように実体はないが確実に肌をなでる感情の機微が、静謐な映像美によって詩的に昇華されています。佐伯日菜子と鳥羽潤が体現する、言葉にできない孤独と再生への予兆は、観る者の魂に深く浸透してくる圧倒的な引力を放っています。
ミステリアスな空気の中にロマンスが溶け込む演出は、癒えない傷を抱えつつ明日を模索する人間の強さを浮き彫りにします。絶望と希望が混ざり合う福島の地で、二人の視線が交差する瞬間の熱量は、何千もの言葉以上に雄弁です。過ぎ去った時間と未来への祈りが共鳴し合う本作は、喪失の先にある光を鮮烈に焼き付けてくれる、祈りにも似た傑作です。