伊藤高志監督が仕掛ける視覚の迷宮は、観る者の時間感覚を鮮やかに狂わせます。コマ撮りや多重露光といった実験的な手法によって、日常の断片が激しく明滅し、静謐なドラマに狂気的な躍動感を与えています。大下美穂らが見せる刹那の表情が、歪む空間の中で結晶化し、記憶の底に直接触れてくるような感覚は、本作でしか味わえない唯一無二の魅力です。
本作が問いかけるのは、認識の不確かさと存在の儚さです。加速する映像の奔流はやがて抽象的な祈りのようにも響き、物質と精神の境界線を消失させていきます。映像という魔術を駆使して、言葉では到底到達できない感情の領域を切り拓いたこの作品は、まさに純粋な視覚体験の極致と言えるでしょう。