ジェイムズ・ジョイスが築いた言葉の迷宮を、映像で鮮烈に解体した珠玉の一作です。最大の見どころは名優ピーター・オトゥールの朗読にあります。彼の威厳ある声は、活字では捉えきれないジョイス文学の「音楽性」を官能的に引き出し、観る者を一気にその深淵なる世界観へ引き込みます。
本作は、天才の孤独とダブリンの風土を共鳴させる演出が見事です。視覚的な詩情を通じて、難解な宇宙が一人の人間の切実な葛藤として浮かび上がります。誰かに理解されたいという根源的な渇望は、時代を超えて我々の魂を揺さぶり、静謐ながらも情熱的な感動を刻みつけます。