本作の最大の魅力は、ダニエル・ヘンドラーが体現する「凡庸な悪」の滑稽さと悲哀にあります。激動の時代を背景に、不透明な経済圏を泳ぐ両替商の男。その抑圧された野心と小心さが、乾いたユーモアを伴って描かれる様は圧巻です。自らの欲望に翻弄される男の姿を通し、観客は人間の脆さと社会の歪みを突きつけられることになります。
緻密な色彩設計とカメラワークは、金にまみれた世界の空虚さを残酷なまでに美しく切り取っています。ドロレス・フォンシが見せる冷徹な存在感も素晴らしく、言葉の裏に潜む打算が画面から滴り落ちるようです。これは通貨という実体のないものに魂を預けた人間たちの末路を冷徹に、かつ情熱的に描く、極上のノワール的寓話と言えるでしょう。