あらすじ
東日本大震災で心に傷を負った福島県いわき市の女子高生・佐智は、友人や家族とどこか距離を置きながら、人にも恋にも無関心に生きてきた。幼い頃からバイオリンを続け、高校でも音楽部に所属する彼女は、文化祭で四重奏を披露するため日々練習に励んでいる。一方、震災で実家が帰宅困難地域となり、いわき市に避難してきた男子高校生・祐介は、当たり前の景色が失われてしまう現実に直面し、“美しい今”を絵画として残すべく描き始める。展覧会に出品する夕景画を描くため田園風景を訪れた彼は、そこで出会った佐智と惹かれ合っていく。
作品考察・見どころ
福島県いわき市の美しい風景を舞台に、日常の何気ない瞬間に宿る奇跡を描き切った珠玉の一作です。夕暮れ時の淡く溶け合うような色彩設計が、思春期特有の揺れ動く心情を鮮烈に映し出し、観る者の郷愁を激しく揺さぶります。今を生きる少年少女の心の機微を、押し付けがましくなく肯定する演出には、この作品にしか出せない透明感と祈りのような温かさが満ち溢れています。
桜田ひよりと加藤清史郎が魅せる、等身大の演技も特筆すべき点です。言葉にならない沈黙や視線の交錯から生まれる叙情性は、実力派キャストとの共演で息を呑むほどのリアリティを構築しています。ただ美しいだけでなく、一歩踏み出す勇気を静かに授けてくれる本作の眼差しは、現代を生きる私たちの心に深く、熱く突き刺さるはずです。