市川崑監督の鋭敏な美学が、大海原という極限状態で炸裂します。石原裕次郎が従来のスター像を脱ぎ捨てて挑んだ、泥臭くも純粋な生存への執着は圧巻の一言。閉塞感漂うヨットの内部と、圧倒的な解放感と恐怖が同居する太平洋のコントラストが、青年の内面を鮮烈に可視化し、観る者の魂を激しく揺さぶります。
原作の手記が持つ不屈の精神を、映画は「動く肖像」へと昇華させました。活字では描ききれない波の荒々しさや静寂を、芥川也寸志と武満徹による音楽が彩り、映像ならではの独創的なカット割りが孤独の深淵を浮き彫りにします。個人の無謀な挑戦を、普遍的な人間の美しき生へと変貌させた、映像表現の極致と言えるでしょう。