1940年代のフランス喜劇が放つ、洒脱で洗練された空気感が凝縮された一作です。主演のアニー・デュコーが見せる、正気と狂言の狭間を軽やかに舞うような変幻自在な演技は、観る者を瞬時に魅了します。共演のアンドレ・リュゲとの息の合った掛け合いは、単なる笑いを超え、人間関係の機微を鋭く突く極上のエンターテインメントへと昇華されています。
原作である舞台劇の持つ饒舌なウィットを継承しつつ、映画という媒体ならではのテンポ感と表情のクローズアップが、物語に深い奥行きを与えています。愛を確かめるために狂気を演じるという危うい遊戯を通して、日常という仮面の下に隠された真実の情熱を浮き彫りにする演出は実に見事です。虚飾の裏にある人間性の本質を突く、時代を超えた傑作といえるでしょう。