エジプト映画の巨匠が手掛けた本作は、ヒッチコックを彷彿とさせる緊密な心理描写が横溢する傑作です。光と影が交錯するモノクロームの映像美は、登場人物たちの疑念や裏切りへの恐怖を言葉以上に雄弁に語り、観客を逃れられない緊張感の渦へと誘います。
名優ナディア・ロトフィとマフムード・ムルシーの演技の火花は圧巻です。崩れゆく信頼の中で自己を喪失していく魂の叫びは、時代を超えて観る者の胸を突き刺します。不信という毒がいかに日常を侵食するかを冷徹に描き出す本作は、人間の心の深淵を覗き込むような鋭い洞察に満ちた、スリラーの真髄と言えるでしょう。