小津安二郎監督が描く、美しくも切ない家族の解体と再生の物語です。原節子が体現する紀子の、凛とした気品と心の揺らぎが、低く据えられたカメラが切り取る静謐な空間に見事に溶け込んでいます。何気ない日常の会話や所作に、戦後日本が抱えた変化への不安と希望が凝縮されており、観る者の心に静かながらも強烈な感動を呼び起こします。
幸福とは何かという問いに対し、本作は穏やかな諦念と受容を通じて答えを提示します。淡島千景との軽妙な友情や笠智衆が見せる静かな慈愛が、重層的な人間ドラマとしての深みを与えており、麦が実る初夏の風景とともに家族の刻を閉じ込めた演出は圧巻です。まさに日本映画が到達した、永遠に色褪せない至高の芸術と言えるでしょう。