本作の真髄は、七〇年代フランスの閉塞感を見事に掬い上げた冷徹なまでのリアリズムにあります。主演のジャック・スピエセルが見せる静かなる苦悩と、若き日のイザベル・ユペールが放つ、壊れそうなほど鋭利な存在感。彼らのアンサンブルが、個人の誠実さと社会の腐敗が衝突する瞬間の火花を、銀幕に鮮烈に焼き付けています。
ジャック・ファンスタン監督は、不条理な現実に抗う者の孤独を、美化することなく描き切りました。映像の端々から漂うのは、時代の転換期に漂う焦燥と、それでも己を貫こうとする人間の高潔な意志です。観る者は、主人公の彷徨を通じて、現代にも通じる正しさの在り処を突きつけられるでしょう。一度観れば忘れがたい、魂を揺さぶる傑作です。