本作の白眉は、安藤昇が放つ虚構を超えた圧倒的なリアリズムにあります。彼の眼光に宿る静かな虚無感は、戦後日本の混沌を象徴するアイコンとして画面を支配しています。瑳峨三智子の妖艶さと待田京介の動的な熱量が火花を散らし、抗争劇の中に、行き場のない男たちの情念が痛烈に刻み込まれています。
中島貞雄監督は様式美を排し、剥き出しの暴力と生存本能を冷徹に捉えました。これは単なる犯罪映画ではなく、欲望に翻弄される人間の「生」への執着と虚しさを描いた、残酷で美しい鎮魂歌です。歴史の闇に埋もれた血の記憶を映像で抉り出す先鋭的な演出は、今なお観る者の魂を激しく揺さぶります。