林芙美子による未完の絶筆を、成瀬巳喜男監督が映画化した文芸巨編。サラリーマン夫婦の家に奔放な姪が転がり込んだことから巻き起こる、微妙な愛情の交錯を描く。主人公夫妻を原節子と上原謙が好演している。
成瀬巳喜男監督が切り取ったのは、戦後復興の陰で漂う夫婦の倦怠という名の静かな絶望です。上原謙の無頓着な振る舞いと、名優・原節子が秘めた日常への苛立ち。その微細な表情の変化が、淡々と繰り返される食事の風景に宿る不穏さと切実さを鮮烈に浮き彫りにします。 本作の真髄は劇的な事件ではなく、むしろ何も起きないことの重みにあります。台所の生活臭までも映し出す演出は、観る者に人生の諦念と僅かな希望という根源的な問いを突きつけます。銀幕に刻まれた、この静かな魂の格闘をぜひその目で目撃してください。
監督: 成瀬巳喜男
脚本: 林芙美子 / 井手俊郎 / 田中澄江
音楽: 早坂文雄
制作: 藤本真澄
撮影監督: 玉井正夫
制作会社: TOHO