あらすじ
1940年、とある農村に住む青年、黒川久蔵は日中戦争の激化に伴い徴兵を受け、戦地へと赴いた。それから4年後、久蔵は頭部に深い火傷を負い、四肢を失った姿で村に帰還する。戦線で爆弾の爆発に巻き込まれた彼は、声帯を傷つけて話すこともできない上、耳もほとんど聴こえない状態になっていた。「不死身の兵士」と新聞に書き立てられ、少尉にまで昇進した久蔵を村人は「軍神様」と呼び崇め称える。しかし親戚たちは彼の変わり果てた姿に絶望し、妻であるシゲ子に世話を全て押し付けてしまう。
作品考察・見どころ
寺島しのぶが放つ圧倒的な生命力と、極限状態の狂気が観る者の魂を震わせます。四肢を失い軍神として帰還した夫と、彼を世話する妻。閉ざされた家屋という密室で繰り広げられるのは、愛憎を超越した生々しい人間性の剥き出しです。戦争が個人の尊厳をいかに蹂躙し、歪めていくかを、言葉以上に雄弁な身体表現と鋭い眼差しで突きつけてきます。
若松孝二監督は、英雄という虚飾に隠された惨めな現実を容赦ないリアリズムで抉り出します。単なる反戦映画の枠を超え、支配と被支配が逆転していく夫婦の業を描いた演出は圧巻の一言。極限まで削ぎ落とされた映像美の中に、人間の底知れぬ本質を宿した衝撃的な傑作であり、一度観たら忘れられない重厚な読後感を約束します。