溝口健二監督の美学が結晶化した本作は、芸道に生きる男と彼を支え抜く女の献身が織りなす、究極の様式美に満ちています。最大の見どころは溝口特有の長回し技法です。流麗なカメラワークが明治期の梨園の空気感を鮮烈に描き出し、観客をその場に立ち会わせるような圧倒的な臨場感へと誘います。
花柳章太郎が見せる、未熟な表現者が真の芸人へと昇華する凄絶な憑依。そして森赫子が体現する、自らを滅ぼしてまで愛を貫く精神性は魂を揺さぶります。至高の芸のために払われる代償の重さと、無私の愛が持つ残酷なまでの美しさを映像美で刻みつけた不朽の傑作です。