溝口健二監督が描く、美しき退廃と宿命の美学。熱海の情景を背景に、没落する旧家の品格と抗えない愛欲の沼がモノクロームの映像美で鮮烈に浮かび上がります。木暮実千代の妖艶な演技は、伝統という檻に閉じ込められた女性の悲痛な叫びを、言葉以上に雄弁に訴えかけてきます。
舟橋聖一の原作が持つ官能性を、溝口は研ぎ澄まされたカメラワークによって究極の抒情へと昇華させました。文字による心理描写を光と影の演出で視覚化し、原作以上に深い孤独と絶望を際立たせた点は、映像表現の極致と言えます。静寂の中に潜む狂気と耽美な世界に、魂が激しく揺さぶられる一作です。