あらすじ
数日間行方不明だった夫の真治がようやく家に戻って来たものの、それまでとはどこか違う彼の態度や言動に、妻の鳴海は戸惑いといらだちを募らせることに。けれども、そんな彼女にはお構いなしに、真治は毎日ふらふらと散歩に出掛けては、何やら不可思議な行動を繰り返す。そのころ町では、とある一家が惨殺されるなど、奇妙な出来事が次々と発生。ジャーナリストの桜井は、何かがおかしいと、独自の調査を開始する。
作品考察・見どころ
黒沢清監督が描く、静謐ながらも根源的な恐怖が漂う概念の略奪という独創的な設定が本作の白眉です。侵略者が人間の脳から特定の言葉を奪うプロセスは、私たちが当たり前だと思っている日常がいかに脆い土台に成り立っているかを鋭く突きつけます。松田龍平の浮世離れした佇まいと長澤まさみの剥き出しの感情が響き合い、観客を底知れぬ不安と、それゆえの美しさへと誘います。
終盤に加速するスペクタクルと、愛という概念を巡るパーソナルな決着は、映像でしか到達できない崇高な叙情性を湛えています。概念が奪われることで逆説的に浮かび上がる、人間としての尊厳や感情の重み。崩壊していく世界の中で、理屈を超えた絆のあり方を問う本作は、単なるSFの枠を超えた、魂の再構築を試みる深遠な人間ドラマといえるでしょう。
映画化された原作や関連書籍を読んで、映像との違いや独自の世界観を楽しみましょう。