あらすじ
三田静香は劇団「海」の研究生で、女優になるために努力を重ねる20歳の女性。そんな真摯な静香を公園で見初めた森口は元劇団員の26歳、今は不動産屋の社員をしている。静香は劇団の次回公演『Wの悲劇』の主役選考オーディションに臨むが、同期のかおりが役を射止め、静香は物語の冒頭でひとことだけ台詞のある端役を担当することになった。オーディションに落ちて落ち込む静香に、森口は俳優時代の心理的な苦悩を語る。そして、森口は、静香がスターになれなかったらという条件で結婚を申し込み、反対に静香が役者として成功した場合はサヨナラの意味も込めて楽屋に大きな花束を贈ることを約束する。
作品考察・見どころ
本作は、演技という魔物に魅了された女性の剥き出しの情熱と、虚実が入り混じる演劇界の残酷なまでの美しさを描いた傑作です。最大の魅力は、主演の薬師丸ひろ子が見せる、無垢な少女から業の深い「女優」へと変貌を遂げる凄まじいまでの覚悟にあります。舞台上の悲劇と現実の事件が不気味に共鳴し、観る者を眩暈のような錯覚へと誘う構成は見事の一言に尽きます。
演出面では、脇を固める俳優陣が放つ圧倒的な圧が、芸能界という虚飾の迷宮に強烈なリアリティを与えています。愛を捨て、嘘を喰らい、喝采を糧に生きる道を選んだ彼女が迎えるラストシーンの神々しさは、観る者の心に深い爪痕を残すでしょう。これは単なる成長物語ではなく、何者かになろうとする人間の狂気と崇高さを問う、魂の記録なのです。