あらすじ
大岡昇平の同名小説を、和田夏十が脚色し市川崑が監督した反戦映画。病院にも部隊にも見放された田村は、フィリピン戦線のレイテ島をさまよっていた。同じように敗走している仲間と病院の前で合流するが、その病院が砲撃を受けたため、田村は一人で逃げ出す。食べるものもなく、仲間を失った田村は、草を食べて生き延びていた。やがて生き別れたかつての仲間である永松と安田と再会。二人は殺した味方の兵士を“猿”と称し、その肉を食べていた…。
作品考察・見どころ
市川崑監督による本作は、極限の飢餓に置かれた人間の尊厳と崩壊を、冷徹なまでに美しい白黒映像で刻んだ傑作です。船越英二が身を削って体現した、狂気に蝕まれる兵士の姿は、観る者の倫理観を激しく揺さぶる凄まじいリアリズムを放っています。地獄の惨状と皮肉なほど輝く自然の対比は、映像でしか到達し得ない強烈な情念を突きつけます。
本作は、文明を剥ぎ取られた極限下で「人間が人間でいられる境界線」を問う痛切なメッセージを内包しています。一切の感傷を排した演出が、生存本能と道徳の狭間で葛藤する魂を浮き彫りにします。生命の根源的な美醜を剥き出しにした圧倒的な映像美は、戦争という狂気のなかで失われゆく人間性への、最も激しくも美しい鎮魂歌といえるでしょう。
映画化された原作や関連書籍を読んで、映像との違いや独自の世界観を楽しみましょう。