ハインツ・ホーニヒ、カタリーナ・タルバッハといった名優たちが織りなす、計算し尽くされた不条理なアンサンブルこそが本作の真髄です。犯罪コメディという枠組みを借りながら、人間の滑稽さと愛おしさを浮き彫りにする演出は圧巻で、画面越しに漂う場末の空気感と絶妙なユーモアが、観る者を一気に作品の世界観へと引き込みます。
単なるドタバタ劇に留まらず、人生のどん詰まりで足掻く者たちの矜持を鋭い視点で描いている点が見逃せません。ティエリー・ヴァン・ヴェルヴェーケが放つ独特の存在感は、予測不能な展開にリアリティという重奏を加え、観る者に再起の真意を問いかけます。混沌とした状況を逆手に取る爽快なエネルギーに満ちた、大人のための極上のエンターテインメントです。