小林正樹監督が放つ本作は、非人間的な極限状況で「人間」であり続けようとする魂の彷徨を描く傑作です。五味川純平の大河小説が持つ重厚な思索を、映画は圧倒的なリアリズムと冷徹な映像美へ昇華させました。活字では捉えきれない、泥にまみれ飢えに苦しむ肉体の物質的な痛みが、観る者の倫理観を鋭く抉ります。
若き仲代達矢の飢えた狼のような眼光と、新珠三千代が体現する愛情の対比は、絶望の中の希望として胸を打ちます。原作のスケールを損なうことなく、映像ならではの沈黙や音の演出を駆使し、組織の暴力に抗う個の孤独を際立たせた演出は見事です。人間の尊厳を問う、今こそ観るべき映画史の至宝と言えるでしょう。