あらすじ
「男はつらいよ」シリーズ第20作。とらやに下宿中のワット君こと良介(中村雅俊)が、初対面の寅さんを“押し売り”と間違えたことから大騒動となる。結局、寅さんと意気投合した良介は、食堂「ふるさと亭」の幸子(大竹しのぶ)との恋愛を、寅さんの指南で成就させようとするが、振られたと勘違い。良介はガス自殺を計ろうとして、とらやの二階は大爆発! 責任を感じ、長崎県平戸に帰った良介を、励まそうと寅さんがやってくるが、良介の姉・藤子(藤村志保)に一目惚れをして、そのまま居着いてしまう…
作品考察・見どころ
本作の最大の魅力は、渥美清が見せる喜劇役者としての円熟味と、藤村志保の端正な美しさが生み出す絶妙なコントラストにあります。不器用ながらも他人の幸せを純粋に願う寅次郎の滑稽さと、その裏側に潜む孤独が、季節の移ろいとともに情緒豊かに描き出されています。単なる笑いを超え、人間の可笑しみと哀しみを同時に肯定する演出は、シリーズ中盤の傑作と呼ぶに相応しい完成度を誇ります。
特に注目すべきは、脇を固める倍賞千恵子の繊細な演技と、茶の間の風景に宿る圧倒的な安心感です。本作が放つ「頑張れ」というメッセージは、決して押し付けがましい鼓舞ではなく、失敗ばかりの人生でも誰かの光になれるという祈りに似たエールです。鑑賞後、不完全な自分さえも愛おしく思えるような、魂を優しく包み込む温かな余韻に浸れる珠玉の人間ドラマといえるでしょう。