F.W.ムルナウが描く本作の真髄は、目に見えない「執着」を銀幕に具現化させた独創的な視覚表現にあります。ドイツ表現主義の巨匠による光と影の魔術は、主人公の崩壊していく精神世界をファンタジックかつ不気味な映像美へと昇華させました。観客は単なる悲劇を超え、美しき幻影に囚われた人間の業そのものを、まざまざと目撃することになります。
アルフレート・アーベルの、狂気と気品が入り混じった演技は圧巻です。彼が追う幻影は誰もが胸に秘める届かぬ欲望の象徴であり、現代に生きる我々の心にも鋭く突き刺さります。一瞬の出逢いが人生を狂わせる残酷さと、その先に待ち受ける救済を圧倒的な映像言語で語りかける、映画史に刻まれるべき情熱的な名作といえるでしょう。