本作は、安定した生活と新たな情熱の間で揺れ動く人間の優柔不断さを、旧東ドイツの閉塞感の中で鮮烈に描き出した傑作です。ディーター・マンが見せる、知性と情けなさが同居した繊細な演技は、観る者の心に深い自己投影を促します。単なる不倫劇を超え、既定の枠組みから逃れようともがく魂の叫びが、映像の端々から滲み出ています。
原作である小説「ビュリダンのロバ」が持つ鋭い風刺を、本作はより詩的な抒情性へと昇華させています。文字による内面描写を、拠り所のない「裏庭」という空間の質感によって視覚化した演出が見事です。言葉を超えて伝わる生活の重みや光の使い分けは、映像メディアだからこそ成し得た表現であり、原作の持つ苦みをより美しく、そして残酷に際立たせています。