倍賞美津子が体現する、記憶の濁流に抗いながらも愛を渇望するヒロインの姿が圧倒的です。異国の地で言葉の壁を越え、静かに壊れていく内面を、繊細な震えや眼差し一つで表現する彼女の演技は、観る者の魂を激しく揺さぶります。喪失の恐怖と隣り合わせにある、人間の根源的な美しさと尊厳が、銀幕から溢れ出しています。
夫役のボー・スヴェンソンが醸し出す包容力と、アメリカの乾いた風景が、物語に独特の透明感を与えています。老いと忘却という過酷な現実を、単なる悲劇としてではなく、慈愛に満ちた究極のロマンスへと昇華させた演出が実に見事です。形あるものが消え去った後に残る、目に見えない「愛の残り香」の強さを鮮烈に描き出した傑作といえるでしょう。