この作品の真髄は、霧に包まれたアルプスの厳しい自然と、混濁していく人間の意識を鮮烈にシンクロさせた映像美にあります。失われゆく記憶をめぐる物語は、単なる悲劇を超え、伝統の継承と再生の葛藤を描く重厚な叙事詩として昇華されています。静謐ながらも力強い演出が、観る者の魂を激しく揺さぶります。
特にマーティン・ラポルドとペーター・フライブルクハウスが見せる、言葉を超えた演技の応酬は圧巻です。介護という切実なテーマの奥にある人間の尊厳や家族の絆の本質を、これほどまでに鋭く、かつ慈しみを持って描き出した手腕は見事というほかありません。人生の黄昏時に差す一筋の光のような、強烈な余韻を残す傑作です。