あらすじ
瀬戸内海の小島に住む一家が、押し寄せる高度経済成長の波に追われ、それまでの慎ましくも幸せな生活を手放すまでの揺れ動く心情を哀惜をこめて描いた人間ドラマ。監督は“男はつらいよ”シリーズの山田洋次。瀬戸内海の小島、倉橋島。精一と民子の夫婦は石船と呼ばれる小さな砕石運搬船を生業としていた。夫婦は美しい自然に囲まれ、二人の子どもと清一の父親とともに、裕福ではないにしても楽しく満ち足りた日々を送っていた。そんな夫婦には最近ひとつだけ悩みがあった。長年仕事を共にしてきた大切な石船のエンジンの調子が思わしくないのだった……
作品考察・見どころ
山田洋次監督が瀬戸内の多島美を背景に描くのは、時代の荒波に呑まれる家族の葛藤です。消えゆく家業と離郷の決断が、徹底したリアリズムで活写され、観る者の胸を締め付けます。本作は単なる郷愁を超え、変革の中で守るべき人間の尊厳とは何かを問い直す、普遍的な力強さに満ちた叙事詩です。
倍賞千恵子と井川比佐志の熱演、笠智衆の静かな哀愁が、物語に深い慈しみを与えています。土地と共生する喜びと引き剥がされる痛みを捉えた映像美は、現代を生きる私たちの心の深淵にまで響き渡るでしょう。失われるものへの鎮魂と、未来への確かな一歩を感じさせる傑作です。