本作は、理知的な精神科医が情熱の迷宮へと堕ちていく様を、氷のような冷徹さと燃えるような執着の対比で描いた心理劇の傑作です。理性で制御できない感情の暴走を「驚愕する心」として捉え、洗練された会話劇の裏側に潜む人間の脆弱性を、主演のノエル・カワードが自ら凄絶に体現しています。
自著の戯曲を映画へと昇華させた本作は、舞台特有の凝縮された密室性を引き継ぎつつ、映像ならではのクローズアップがもたらす心理的圧迫感が見事です。視線の揺らぎや沈黙の重みが、単なる悲劇を超えた内省的なドラマへと深化させています。セリア・ジョンソンの抑制された名演が、崩壊していく愛の輪郭を鮮明に描き出し、観る者の魂を激しく揺さぶります。