アンジェラ・ランズベリーという稀代の名優が放つ、慈愛に満ちた佇まいと鋭い知性の融合こそが本作の白眉です。一見どこにでもいるような老婦人が、その人生経験と動じない精神を武器に、混沌とした諜報の世界へ軽やかに飛び込んでいく姿は、観る者に「年齢は可能性の制約ではない」という強烈な勇気を与えてくれます。彼女が醸し出す品格が、無機質なスパイの世界に温かな人間味を吹き込む瞬間は、至福の映画体験と言えるでしょう。
演出面では、サスペンスの緊張感とユーモアの絶妙なバランスが光ります。若手エージェントとの対照的なバディ感も見どころで、体力や技術ではなく、観察眼と誠実さこそが最大の武器になるという逆転の発想が痛快です。日常の中に潜む非日常を見事に描き出し、閉塞感を感じている現代人の心に、新しい一歩を踏み出すための冒険心を鮮やかに灯してくれる傑作です。