“巻き戻しができない1回きりの人生、無理をしなきゃいけない時がある”
2020年、熊本を襲った豪雨から3カ月。母の訃報を受けた孝之は22年ぶりに帰郷するが、仮設住宅で暮らす息子の文則は、かつて自分を捨てた父に心を開こうとしない。球磨川くだりの再開を信じて船頭を志す文則は、かつての同級生・樹里と再会し…。
本作の真髄は、静寂の中に響く「心の声」を映像美へと昇華させた演出にあります。河の流れが象徴する悠久の時間と、そこに潜む感情の機微が見事に調和しています。耳を澄まさなければ聞こえない微細な環境音が、観客の深層心理を揺さぶり、忘れかけていた記憶を呼び覚ますような深い没入感を生み出しています。 中原丈雄の重厚な佇まいと清水美砂の透明感ある演技の対比は圧巻です。言葉に頼らず、視線一つで語られる葛藤と再生の物語は、映像でしか成し得ない至高の表現と言えるでしょう。過去を抱え未来へ流れる生を肯定するメッセージは、現代人の孤独を静かに、そして情熱的に癒してくれるはずです。
監督: 大木一史
脚本: 大木一史