あらすじ
5年前に父を自殺で亡くした春子。ある朝、父が今にも死にそうな夢を見た彼女は、それまで蓋をしてきた5年間の記憶をよみがえらせていく。父の死後に宝くじで大金を当てた彼女は、その大金があれば父は自殺しなくてよかったという思いから、罪悪感を抱えつづけていた。トラウマを抱える人々が集まる「安住の会」に通う春子は、そこで出会った青年・幸雄が起こした事件に巻きこまれていく。一方、春子には同じく「安住の会」出身の恋人・連太郎がいたが、小説家志望の連太郎が書いた原稿を見て彼の本質を知ってしまう。
作品考察・見どころ
本作が提示する正しく忘れるという逆説的な問いは、喪失を経験した全ての魂に深く突き刺さります。過ぎ去った時間をただ消し去るのではなく、痛みと共にどう咀嚼し、明日へと繋げるか。静謐な映像の中に渦巻く感情の機微は、言葉にできない孤独を優しく包み込み、観る者の心に静かな波紋を広げ続けます。
若き日の染谷将太らが放つ瑞々しくも危うい存在感は、この物語に圧倒的なリアリティを与えています。抑制された演出がキャストの繊細な表情を際立たせ、沈黙の中にこそ真実が宿ることを証明しています。記憶の断片を手繰り寄せ、あえてそれを手放す瞬間の美しさは、映像という表現媒体でしか到達できない崇高な領域に達していると言えるでしょう。