マルーン・バグダディ監督が描くのは、銃声が日常となったベイルートで、若者たちが己のアイデンティティを見失い、変貌していく狂気と焦燥の軌跡です。ドキュメンタリー的なリアリズムと夢幻的な映像美が同居する演出は、戦争という巨大な怪物が個人の内面をどのように浸食し、変質させるかを冷徹かつ詩的にあぶり出しています。
特筆すべきは、キャスト陣が放つ圧倒的な生への執着と虚無感のコントラストです。破壊された街並みを背景に、愛や正義さえも戦火に飲み込まれていく様は、単なる社会告発を超えた普遍的な悲劇として観る者の魂を激しく揺さぶります。混迷の時代を生きる者たちの眼差しに、私たちは人間の業と、それでも消えない生の熱量を突きつけられるのです。