あらすじ
井伏鱒二の同名小説の映画化で、西日本のローカル・カラーを取入れて庶民生活の哀歓を描いたコメディ。「抱かれた花嫁」の共同脚本執筆者の一人、椎名利夫が脚色、「土砂降り」の中村登が監督した。撮影は「抱かれた花嫁」の生方敏夫。主演は「ただいま零匹」の佐田啓二、岡田茉莉子二人を中心に小林トシ子、花菱アチャコ、伊藤雄之助、トニー谷、市村俊幸、関千恵子、十朱久雄など。色彩はイーストマン松竹カラー。
作品考察・見どころ
野村芳太郎監督が描く人間の業と滑稽さのバランスが絶妙な一作です。佐田啓二の都会的な品格と岡田茉莉子の弾けるような生命力が鮮やかに交錯し、そこに花菱アチャコの至芸が加わることで、喜劇を超えた人間ドラマの厚みが生まれています。金というシビアな題材を扱いながら、全編に漂う軽妙洒脱なリズムは、黄金期の日本映画が誇る至高の娯楽と言えるでしょう。
金に振り回される人間の愚かさを笑い飛ばしながら、その根底には人間への温かな肯定が貫かれています。欲望を剥き出しにする姿は、泥臭くも愛おしい生への執着を感じさせ、観る者の活力を呼び覚まします。俳優陣の火花散る競演と巧みな演出が、現代社会に生きる私たちの心にも鋭く、かつ心地よく響き渡る傑作です。