日本初の本格的なトーキー映画として、音そのものを物語の主役へと押し上げた五所平之助監督の才気が光る一作です。執筆を邪魔する隣家のジャズというノイズが、次第に主人公の心を昂揚させていく音響演出は、単なる録音技術の誇示を超えた、映画表現における新たな夜明けを感じさせます。
渡辺篤が見せる滑稽なまでの焦燥感と、若き田中絹代の凛とした愛らしさの対比も見事です。モダンなマダムと伝統的な女房という、昭和初期に交錯した二つの価値観が、軽快な喜劇のテンポに乗せて鮮やかに描き出されています。音と映像が初めて真に共鳴し合った瞬間の熱量を、ぜひその耳と目で体感してください。