第二次世界大戦下のマルセイユを舞台に、極限状態における人間の尊厳と脱出への執念を銀幕に焼き付けた傑作です。旧市街の破壊という歴史的背景を、生の渇望を際立たせる舞台装置として昇華させた演出が白眉。スティーヴン・ボイドの抑制の効いた演技が、絶望の中に灯る微かな希望を鮮烈に体現しています。
原作ルパート・クロフト=クックの小説が持つ内省的な苦悩を、本作は緊迫感あふれる映像美によって、肌に迫るスリラーへと見事に翻訳しました。文字では説明し尽くせない戦時下の混沌を、構図と役者の眼差しで語りかける手法は映画ならでは。手に汗握る臨場感と深い余韻が同居する、語り継がれるべき一編です。