シーモア・ヒックスの爆発的なエネルギーが全編を支配する本作は、喜劇の真髄を突いた傑作です。記憶を喪失した男が陥る皮肉な運命を、彼は卓越した身体表現と豊かな表情で演じ切り、観客を笑いの渦へと誘います。単なるドタバタ劇に留まらない洗練された演技スタイルは、演劇的な格調高さと映画的なスピード感を見事に融合させています。
社会的地位や名前という「記号」の脆さを笑い飛ばす風刺精神こそが、本作の魅力です。共演陣との緻密に計算された掛け合いは、一瞬の隙もないカタルシスを生み出しています。アイデンティティの不確かさを軽快に肯定してみせる本作は、今なお鮮烈な驚きと多幸感を与えてくれる珠玉の一本と言えるでしょう。