成瀬巳喜男監督が描く、倦怠期を迎えた夫婦の心理戦は凄まじい緊張感に満ちています。高峰三枝子の凛とした佇まいと上原謙の煮え切らない空気感が、日常に潜む危うさを浮き彫りにします。狭い家屋での視線の交錯や溜息は、映像という媒体だからこそ結晶化した、静かなる心理スペクタクルと言えるでしょう。
林芙美子の原作から内面描写を削ぎ落とし、所作や空間の余白で感情を語らせる演出は圧巻です。文字で追う葛藤が銀幕では「空気の重さ」として肉体化され、観る者は逃げ場のない夫婦のリアルに戦慄します。愛の継続という真実を突きつける、成瀬映画の到達点です。