本作の真髄は、日常に潜む情念の悍ましさを耽美な映像美で描き出した点にあります。蜜の甘やかさと腐敗が同居するような異様な緊張感が漂い、観る者は逃げ場のない心理的迷宮へと誘われます。男と女の愛憎を超え、人間の底知れぬ業を炙り出す演出は圧巻であり、静かな狂気が肌にまとわりつくような感覚は唯一無二のものです。
加藤治子の圧倒的な威圧感と、星野知子の繊細な演技が散らす火花は、作品に凄烈な厚みを与えています。家庭という密室が、光と影の演出によって徐々に異界へ変貌する様は芸術的ですらあります。理屈を凌駕する心の闇を五感に叩きつける、正に大人のための残酷な幻想譚と言えるでしょう。