野村芳太郎監督による本作は、愛憎の奔流に呑み込まれる人間の業を、端麗な映像美で捉えた傑作です。佐田啓二の理知的な佇まいと、岡田茉莉子の匂い立つような生命感の対比が、静謐な画面に鋭い緊張感を生んでいます。抑制された演出が、かえって心の奥底に渦巻く情熱の深さを際立たせ、観る者の感情を強く揺さぶります。
佐分利信が見せる重厚な存在感が物語に奥行きを与え、孤独ゆえに惹かれ合う男女の宿命を浮き彫りにします。微細な表情の変化が、台詞以上に雄弁に愛の真理を語りかける。それは、映画という媒体だけが到達し得る、一瞬の情景に永遠を封じ込めた至高の芸術体験といえるでしょう。