戦後を代表する名優、原節子が聖女のイメージを脱ぎ捨て、むき出しの生命力を放つ姿に圧倒されます。日本アルプスの峻険な大自然を舞台に、人間の奥底に眠る野性的な本能と葛藤を描き出す演出は、単なる景勝地の映像化に留まりません。吹き抜ける風の冷たさや岩肌の硬質さまでをもスクリーンに定着させた山本嘉次郎監督の手腕により、鑑賞者は視覚を超えた身体的な緊迫感を味わうことになります。
川端康成の原作が持つ繊細で心理的な情動を、映画というメディアは圧倒的なスケール感へと変換しました。文字で描かれた観念的な野性が、実際の山岳風景と衝突することで生まれる映像美は、まさに実写ならではの醍醐味です。文明の規範から解き放たれ、厳しい自然の中で魂が純化されていく過程は、混迷する現代を生きる私たちの心に、真の自由とは何かを問いかけてやみません。