山中貞雄監督による本作は、荒々しい剣客・丹下左膳のイメージを鮮やかに覆し、日常の機微を描いた至高のホームドラマとして昇華されています。大河内傳次郎の凄みと愛嬌が同居する演技は圧巻で、市井の人々の営みを瑞々しく捉えた演出は、時代を超えて観る者の心を激しく揺さぶります。
林不忘の原作が持つニヒリズムを大胆に脱構築し、映像ならではの間とユーモアで「幸福の本質」を問い直した点は白眉です。百万両という価値よりも、何気ない情愛にこそ真の豊かさがあるというメッセージが、流麗な語り口と共に胸に響きます。戦前映画の頂点と呼ぶに相応しい、魂を震わせる傑作です。