本作の魅力は、八〇年代の都市が抱える空虚感と、逃げ場のない閉塞感を見事に視覚化した点にあります。崔洋一監督による鋭利な演出は、団地という垂直の監獄に囚われた男の苛立ちを、不快な羽音を立てる蚊に重ね合わせ、観る者の神経を激しく逆なでします。これは、日常の裏側に潜む狂気が爆発する瞬間を鮮烈に捉えた、極限の人間ドラマです。
主演の内田裕也が体現する、自尊心と困窮に摩耗していく男の悲哀は圧巻です。ロッカーの虚飾を脱ぎ捨て、社会システムから弾き飛ばされた者の生の震えを演じきる姿は、あまりに滑稽で切実です。組織の末端で喘ぐ者が上げる無言の叫びは、時代を超えて、現代を生きる我々の魂を激しく揺さぶるに違いありません。