本作は、東ドイツという国家が掲げた理想と、中東紛争という泥沼の現実に潜む矛盾を容赦なく暴き出す。かつての社会主義国家が諸国民の友好という美名の下で行った工作活動を、冷徹な視点と圧倒的な情報量で描く点に本質的な魅力がある。プロパガンダの裏側に隠された、国家存立を賭けた冷酷な政治的野心が浮き彫りになる瞬間は、見る者に強烈な衝撃を与えるだろう。
映像表現としての白眉は、当時のアーカイブ映像を緻密に再構築し、アリアンネ・ボルバッハの説得力ある語りが重なる点だ。声が導く歴史の迷宮は、観客を単なる過去の傍観者から、現代にも通じる倫理的ジレンマの当事者へと変貌させる。イデオロギーがいかに人間を盲目にさせるかを問いかける、極めて今日的な警鐘を鳴らす傑作である。