本作が描き出すのは、集合住宅という密室で増幅する、目に見えない音への執着と狂気です。階上から響く不穏な振動を起点に、日常がじわじわと侵食される演出が秀逸で、観客の聴覚を極限まで研ぎ澄ませます。不確かな情報が疑念を生み、それがやがて確信へと変わっていくまでの心理的プロセスの可視化こそ、本作の真骨頂と言えるでしょう。
主演のリュ・ファヨンが体現する緊迫感あふれる演技は、都市生活に潜む孤独と、隣人への無関心が招く危うさを鋭く突いています。他人の生活を覗き見る背徳感と、逃げ場のない空間で追い詰められていく恐怖。現代社会の歪みを「音」という媒体で見事に表現しきった、一瞬たりとも目が離せない極上の心理スリラーです。