リリー・フランキーという稀代の表現者が、台所という密室で繰り広げる独り芝居は圧巻です。ただカレーを作る日常的な所作の中に、言葉にならない喪失感と、それでも続く生への執着が静かに刻まれています。包丁の音や湯気まで伝わるリアリズムが、観る者の五感を刺激し、心の奥底に眠る記憶を鮮烈に呼び覚まします。
本作は、愛する人への思慕をスパイスと共に煮込み、自らの血肉へと変えていく究極の鎮魂歌です。淡々と過ぎる時間の中で、男の横顔に宿る哀愁と再生の兆しを見事に切り取っており、孤独を抱えるすべての人に寄り添う珠玉の物語といえます。五感を研ぎ澄ませて、この静謐な情熱に身を浸してほしい傑作です。